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2024.01.23 18:52:34

大学病院での医師の教育や研究は「労働」、厚生労働省が曖昧な「自己研さん」通達を改正

 厚生労働省は、医師が知識や技能を習得するための「自己研さん」に関する2019年7月の通達を一部改正し、労働に該当する具体例として、大学病院での教育や研究を明示した。従来の通達は、自己研さんと労働の線引きが曖昧で、 恣意しい 的な運用を懸念する声が医療現場から上がっていた。医師の残業時間を制限する「医師の働き方改革」が4月から始まるのを前に、解釈を明確化する狙いがある。改正は15日付。

 同省は、診療などの本来業務と直接関連がなく、上司の指示もない自己研さんは、労働に該当しないとの考え方を通達で示し、その運用方法については別の通達で説明していた。

 しかし、昨年8月、甲南医療センター(神戸市)の専攻医が過労自殺した問題が発覚。労働基準監督署が認定した長時間労働について、センター側は「自己研さんが含まれる」と反論し、各地の医師から、本来は労働にあたる時間が自己研さんとして処理されているとの声が相次いでいた。

 こうした状況を受け、自己研さんの考え方に関する通達は維持した上で、運用方法に関する通達を改正した。大学病院の教育や研究は本来業務にあたると明示。具体的には、▽試験問題の作成・採点▽学生の論文作成に対する指導――などを挙げた。

 一般病院については、具体例は示さなかった。その理由について同省は「自己研さんと業務の区分が難しい」としているが、今回の改正で「医師と上司の理解が一致するよう双方で十分に確認すること」を求める文言を新たに加えた。

 同省は「一般病院も、大学病院の考え方に準じて業務との関連性を適切に判断してほしい」としている。

2024.01.23 15:53:26

出生前検査、ダウン症など3種類からの拡大ルール案…日本医学会の認証施設での実施など盛り込む

 妊婦の血液から胎児の病気を調べる「新型出生前検査」について、こども家庭庁は、臨床研究として現在の3種類の病気以外に検査対象を広げて実施する際のルールの素案をまとめた。検査対象は一律でなく、胎児に病気がある可能性が高い妊婦とすべきことや認証施設での実施などを求めている。同庁の専門委員会が年度内にもとりまとめる予定だ。

 検査は現在、日本医学会の運営委員会から認証された施設で、ダウン症など3種類の病気に限って調べている。しかし、認証されていない施設では3種類以外の病気まで検査しているところもある。検査対象を広げる場合、現時点では検査精度などが十分に確立されていないため、臨床研究として進め、検査の妥当性を評価する必要がある。

 素案では、3種類以外の病気を対象とする場合、〈1〉胎児の病気を早期に発見し、早期治療につなげることを念頭に置く〈2〉遺伝カウンセリングやサポートを受けられる認証施設で行う〈3〉各施設の倫理審査委員会で審査を受け、日本産科婦人科学会に報告する――ことなどを盛り込んだ。

 委員からは、より慎重な審査体制を望む声も出ている。こうした意見も踏まえ、最終的にルールをとりまとめ、認証施設で臨床研究を行う際の参考にしてもらう。

新型出生前検査 妊娠9~10週頃以降の妊婦から採血し、胎児にダウン症などの疑いがあるかどうかを調べる。病気が分かると、人工妊娠中絶を選択する妊婦も多く、倫理的な課題がある。日本医学会の運営委員会が認証していない施設で検査し、メールで検査結果を送るだけで相談に応じないなどのトラブルも起きている。

  ◆新型出生前検査 =妊娠9~10週頃以降の妊婦から採血し、胎児にダウン症などの疑いがあるかどうかを調べる。病気が分かると、人工妊娠中絶を選択する妊婦も多く、倫理的な課題がある。日本医学会の運営委員会が認証していない施設で検査し、メールで検査結果を送るだけで相談に応じないなどのトラブルも起きている。

2024.01.22 19:46:28

男性はビールロング缶2本、女性は1本以上で生活習慣病のリスク高める…厚労省の飲酒指針案

 過度な飲酒で健康を害する人を減らそうと、厚生労働省は飲酒についてのガイドライン(指針)案を初めてまとめた。生活習慣病のリスクを高める飲酒量(純アルコール量)を「男性で1日あたり40グラム以上、女性で20グラム以上」と示した。

 純アルコール量20グラムは、ビールで500ミリ・リットル(ロング缶1本)、日本酒で1合程度に相当する。指針案では、少量であっても、がんや高血圧といった生活習慣病のリスクを高めるとの研究結果を引用し、「飲酒量をできるだけ少なくすることが重要」と強調した。

 国内では高齢化や若者の「酒離れ」などを背景に、成人1人あたりの酒の消費量は減り続けている。一方で、2022年にアルコール性肝疾患で死亡した人は1996年の2・6倍に上り、飲酒習慣がある女性の割合は増えている。

 欧米などでは、体質や文化などを踏まえて健康を害さない飲み方を具体的に示した指針を設けている。このため、厚労省は国内でも性別や年齢、体質などに応じた指針を作る必要があると判断し、有識者による検討会で策定を進めてきた。

 指針案では、女性や高齢者は体内の水分量が少ないため、アルコールの影響を受けやすいと指摘。女性は男性より少量かつ短期間でアルコール性肝硬変になる場合があり、高齢者は一定量を超えると認知症の発症の可能性が高まるとした。

 「飲酒時に顔が赤くなりやすい」など、体内の分解酵素の働きが弱い人は国内に約41%いるとするデータを紹介し、「(飲酒に慣れたとしても)口の中や食道のがんのリスクが非常に高くなる」と警告した。

 避けるべき飲酒として、純アルコール量60グラム以上の大量摂取や、不安や不眠の解消目的などを例示。「その日の体調によっても体に与える影響は変わる。飲めない人に無理に飲酒を勧めることも避けるべきだ」と注意を呼びかけている。

 指針案はパブリックコメント(意見公募)を踏まえ、今年度中に公表される。

2024.01.22 12:24:56

介護報酬の改定案、24年度ベースアップ2・5%…賃上げで人手確保狙う

 厚生労働省は22日、2024年度に行う介護報酬の改定の具体案を社会保障審議会分科会に示し、了承された。介護職員の賃上げに取り組みやすくしたり、介護保険の大半のサービスの基本報酬を引き上げたりする。「団塊の世代」が75歳以上になる25年に介護ニーズが急速に膨らむのに備え、着実な賃上げで人材確保につなげたい考えだ。

 介護報酬は原則3年に1度見直される。政府は昨年12月、全体で1・59%のプラス改定とし、0・98%分を介護職員の賃上げに回すことを決めた。これを踏まえ、各サービスの価格をまとめた。

 介護職員の22年の平均給与月額は約29万円で、全産業平均を約7万円下回っている。同年に介護などの仕事を離れた人は約61万人で、新たに職に就いた人を約6万2000人上回った。25年には約32万人の不足が見込まれている。

 職員の賃上げに向けた処遇改善加算について、改定では、事務手続きを簡略化する。24年度は2・5%、25年度は2・0%のベースアップ(基本給の底上げ)を見込む。

 基本報酬については、特別養護老人ホーム(特養)と介護老人保健施設を大幅に引き上げる。厚労省が22年度決算を基に行った経営実態調査で、両施設は全体で初めて赤字に陥ったため、経営改善につなげる狙いだ。

 これに伴い、入居者が支払うサービス利用料も増える。自己負担が1割の人は、例えば要介護3で、特養の個室を利用する場合、月額約6800円増の2万5300円程度になる。

 また、職員が働きやすい職場づくりのため、ICT(情報通信技術)の活用を推進する。利用者の見守りセンサーや介護記録の自動作成機器などを導入し、職員の負担軽減につなげれば報酬を加算する。100人が入居する特養の場合、月10万円程度だ。

 医療との連携では、特養などで入居者の体調が急変した際、医師の往診や入院を受け入れてくれる協力病院の確保を義務付ける。新型コロナ対応を教訓に新たな感染症に備えるため、医療機関と連携し、職員が研修に参加すれば加算する。

 ◆ 介護報酬 =介護保険サービスの公定価格で、事業者に支払われる。サービスごとの「基本報酬」と、一定の要件を満たす場合に上乗せされる「加算」などがある。税金と40歳以上が納める保険料、利用者の自己負担(原則1割)で賄う。報酬が上がったり、加算がついたりすれば自己負担が増える。

2024.01.19 17:44:58

オンライン診療を受けますか?…「時間有効に使える」「誤診が心配だから対面で」

[The論点]

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、スマートフォンやパソコンを使った「オンライン診療」が広がりつつあります。通院しなくて済むという利便性から積極的に活用する人もいれば、これまで通りの対面診療が安心だと考える人も。あなたは受けたいですか。

[A論]遠くの専門医も受診可能

 東京都渋谷区の会社員(26)はぜんそくと慢性胃炎の治療のため、2か月に1回程度、オンライン診療を利用します。

 在宅勤務の昼休み、スマホの画面越しに、都内の診療所にいるかかりつけ医とつながります。処方された薬は、近くの薬局で受け取ります。「通院には片道30分ほどかかる。仕事が忙しい時期は特に、時間を有効に使えるありがたみを感じる」と満足しています。

 厚生労働省が2023年6月に公表した患者調査で利用者に理由(複数回答)を尋ねたところ「感染症の予防」(35%)が最多で、「仕事や家庭の事情で通院する時間がない」(32%)「対面診療より気軽に受診できる」(25%)が続きました。

 医師らでつくる「オンライン診療の健全な推進を図る有志の会」の山下巌・代表幹事は「発熱外来が 逼迫ひっぱく したコロナ禍では、画面越しに『やっと医師と向き合えた』と涙を流す患者もいた。感染症のパンデミック(世界的大流行)や大規模災害の時に必要な医療を受けられる。平常時も、どこでも受診できるため、忙しい患者でも治療を続けられる」と利点を強調します。

 地方の患者には、都市部に集中する専門医とつながる手段になります。沖縄県宮古島市の女性(46)の長女(12)は1年前から、1500キロ離れた大阪市立総合医療センターで働く、てんかん専門医の診察を受けています。

 島内に専門医はいません。初診では、発作の様子を撮影した動画などを確認してもらいました。専門医が勧めた薬に変更すると、1日4、5回あった発作がなくなり、落ち着いて暮らせるようになりました。女性は「車いすの娘を遠方の病院に連れて行くのは大変でお金もかかる。オンラインのおかげでよい医療を受けられる」と喜びます。

 自治体も活用します。福島市は昨秋、オンライン診療を提供する民間企業と契約し、休日の小児科診療への活用を始めました。市内の小児科診療所は減り、医師も高齢化しています。地域の当番医が確保できない休日に案内します。市保健総務課の担当者は「子どもの具合が悪い中、診療所の駐車場などで長時間待たなくて済む」とします。

 日本医学会連合のオンライン診療に関する検討会議の委員長を務める南学正臣・東大教授は「医師から、病院やクリニックで検査や処置が必要とされた時には必ず対面診療を受けるなどのルールを守ることで、多くの患者がオンライン診療の利便性を享受できる」と指摘しています。

[B論]機器の操作が難しい

 診察室で医師と話し、胸に聴診器をあててもらう。そんな対面診療に慣れた患者の中には、直接向き合わないことへの不安を訴える声もあります。

 東京都中野区の小売業の男性(46)は月1回、かかりつけ医がいる医療機関に通院して高血圧の薬を処方してもらいます。血圧は落ち着いています。

 慢性の病気で症状が安定した患者はオンライン診療に向いているとされます。でも男性は「対面診療のような安心感は得られない」と考え、利用するつもりはありません。「毎回の診察では、血圧以外の不調も相談できる。腰が痛ければ『どれどれ』と診てくれて、検査もスムーズ。画面越しではそうはいかず誤診も心配」といいます。

 予約や診察には専用アプリのダウンロードが必要な場合も少なくありません。デジタル機器が苦手な人もいます。同区医師会長の渡辺仁・大場診療所副院長は「高齢の患者から『オンラインで診察を受けたい』と聞いたことがない。ハードルが高いのだろう」と推測します。厚生労働省の調査では、コロナ禍の2021年1~3月にオンライン診療を利用した人の7割が40歳以下でした。

 糖尿病を患う主婦(76)は都内で夫と2人暮らし。「もし主治医に便利だからと勧められても、複雑なシステムを使いこなせない。そもそも耳が遠いので、画面越しでは言葉を聞き取りにくい」と話します。

 厚労省はオンライン診療の指針をまとめています。今、この指針を守らない医療機関が問題になっています。昨年11月、厚労省の調査により、指針が禁じる初診での向精神薬の処方が、不眠症の患者に行われていたことが分かりました。

 自由診療でのトラブルも目立ちます。国民生活センターは同年12月、ダイエット目的でオンライン診療を受けた患者から「たった1分の診察で薬を処方され、腹痛や下痢が出た」「問診が不十分なまま、薬を強く勧められた」などの相談が、同年4~10月に、前年同期の1・7倍に相当する169件も寄せられたため、注意喚起しました。

 オンライン診療のあり方などを検討する政府の審議会委員の佐藤 主光もとひろ ・一橋大教授(財政学)は「オンライン診療は、医療機関へのアクセスを平等にするための有効な手段。国は、誰もが使いやすい環境を整える必要がある」とした上で「いつでもどこでもできる手軽さを悪用する医療機関や医師への対策も進めないと、社会から信頼を得られず、医療として成長しないだろう」と指摘します。

実施は医療機関の1割

 オンライン診療が公的医療保険の適用になったのは2018年4月のことでした。当初は、対面診療を一定期間受けている患者のみで、病気も生活習慣病や難病などに限られました。

 20年、新型コロナウイルスの感染拡大が始まると院内感染を防ぐ利点が重視され、流行が収束するまでの特例措置で、初診の患者にも利用が認められました。22年、初診のオンライン診療は恒久化されました。対象となる病気も増えています。

 ただ、医療現場での普及は十分とはいえません。厚労省に実施を届け出た医療機関は、23年10月時点で1万108か所でした。1年前の1.6倍ですが、国内の全医療機関の1割程度にとどまります。ニッセイ基礎研究所の三原岳・上席研究員は「導入に慎重な医師も多い。画面越しでは触診や検査はできないため、誤診や見落としのリスクへの懸念が根強くある」と説明します。

 通信機器やシステムの導入にかかるコストや、医療機関の収入となる診療報酬が対面診療より低く抑えられていることも障壁になっています。

 日本遠隔医療学会の長谷川高志常務理事は「オンライン診療に対応する医療機関を増やすには、診療報酬の増額など国の後押しが必要だ。医療機関は、患者が自宅で測った血圧データを活用するなど、情報量を増やして対面と同様の質を目指す工夫をしてほしい」と話しています。(医療部 加納昭彦、草竹敦紀、鈴木恵介)

[情報的健康キーワード]アルゴリズム

 コンピューターは機械なので、自分の意思は持っていません。人間の指示を受け、あらかじめ設定された計算方法を用いて自動的に答えを示します。この計算方法をアルゴリズムと呼びます。

 例えばインターネットを検索したり、SNSを見たりしたときに、画面の一番上に目立つように表示するサイトや投稿を決めるのがアルゴリズムです。その計算方法は明らかにされていません。

 アルゴリズムは、データを適正に処理するためになくてはならないものです。しかし、その仕組みがブラックボックスになっていることは問題です。どんな基準で情報が示されているか分からなければ、アルゴリズムが示す情報を安心して受け取ることができないからです。

 こうした指摘は世界中で広がっており、アルゴリズムの透明性を求める声が高まっています。

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