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石橋先生は院長になられて、8年ですか。

石橋:8年です。

前回の金田先生の「組織は正規分布になるから、人は切るな」という教えをどのように守っていらっしゃるのですか。

石橋:誰にもその人なりの存在意義があります。その存在意義を否定すると組織が成り立ちません。その存在意義をどこに求めるのかにもよりますし、それが不要なものに思えるのであれば切るということになるのかもしれませんが、そういう人がいるからこそ、ほかが保てているのだというのが金田先生の教えですね。そうであれば、その人の存在意義はそこに生じます。

金田:ネガティブなことをアクティブにやらない限りはその場所にいさせるべきだと思うね。石巻赤十字病院は僕がいた頃は1200人ぐらいの職員数だったが、今は1500人ぐらいいる?

石橋:1400人ぐらいです。

金田:そのぐらいいれば、やっぱり鼻持ちならない、これは許せないと思えるような人が5人や10人は必ずいますよ。でも、そういう人たちを切れば組織が良くなるかといえば、絶対に良くならない。

石橋:法を犯したりしたのであれば仕方ないですが、そうでなければ切るわけにはいかないですよね。

石井:金田先生、これは教育論にも通じる話ですか。

金田:教育論と組織論はまた別だろうね。

石井:また別ですか。

金田:教育はダイバーシティというのがとても大切だ。組織論では優秀な人間を採用するということが大切だけれど、僕は面白い人間を採用していた。僕はダイレクトに来た人よりも道草を食った人間が好きで、ほかの職業に就いていた人たちを優先的に採用していたことがあって、変わった院長だと言われていた。やっぱり多様性があったほうがいいよ。ただし、この多様性というのはキャラクターとしての多様性であり、正規分布の底辺の5%とは違う。正規分布の底辺の5%は教育の対象としては向かないのではないだろうか。

石井:では、どうすればよいのでしょうか。

金田:教育せずに放っておくしかなくなるだろう。やはり教育の対象として選ぶときには伸びる人間、伸びしろがある人間がいいということになる。だから、今はあまり実力がないけれど、伸びしろがあるという評価をくださないかぎりは教育の対象にするべきではないでしょう。エネルギーの無駄遣いになる。でも、これは今、石井に「教育も正規分布なのか」と聞かれたから考えたことであって、当時から考えていたわけではないよ。

石井:でも、出来の悪い5%を排除することはできないですよね。

金田:排除はできないよ。教育の対象として、自分で選んだのであれば、選んだ中での正規分布の5%は切ったら駄目だ。

石井:なるほど。

金田:教育しようというのであれば、医学生なり、医師集団なりの中の下5%というか、そういった人だと思われる人を採用するのは良くない。ただ、教育したけれども、下5%になってしまったというのはやむを得ないし、何とも言いようがない。それはその人の資質なのかもしれないし、教育する側のこちらの資質なのかもしれない。どちらかと言うと、その責任はこちら側にありそうな気がする。まあ、セレクトするときには伸びしろも考えて、セレクトするべきだと思う。

石井:災害医療の研修会などですと、成人教育の名のもとに誰しもが参加できるような形なのですが、そういう場合はどうすればよろしいですか。

金田:それは底辺の5%を底上げしていく努力をどうするのかという意味だよね。

石井:いえ。教育の対象をセレクトしないという考え方もあるんです。ある先生は教育の対象全てにガサッと網をかけて、その中から何人かでも育てばいいという発想をお持ちです。

金田:そうか。私が話したことは臨床研修指定病院の指導医の立場としてのものだった。そうでない教育というのも無論ある。例えば、国の教育は最初からセレクトしていない。

石井:そうなんです。

金田:それと同じことであって、今、石井が言ったように網をかけようが、かけまいが、全体に投げかけて底上げをしていく教育の形も確かにある。そういった場合には「切る」ということは不可能だ。そういうときには底辺の5%になりそうなcandidateという表現が適切かどうかは分からないけれども、底辺の5%のほうに行きそうな人を行かせないで済ませるにはどうしたらいいのかを考えないといけない。先ほど僕は「ある程度の資質から、より優秀なものをどうやって見分けるか」と言ったが、そうではなく、セレクトしない全体の集団をどうやって教育するかということだね。そういう事態もあり得るし、そういったことも考えないといけない場合も同じだと思う。組織論に似た感じになるが、5%を切るわけにはいかないということだね。しかし、その5%をどうするのかを考えるのはコストパフォーマンスの観点からすると悪い。そこで、上の5%は勝手に良くなるから、間の90%に教育のリソースを傾けろという考え方は教わったことがある。

石井:なるほど。

金田:でも、その考え方が本当に正しいのかどうかは分からない。

初期研修医を選考する

石井:初期研修医をセレクトするときには、先生が先ほどおっしゃったような、教育の対象をある程度、絞るということになるのでしょうか。

金田:そうではない。全体の網かけの中で下から5%をどうするのかを考えないほうがいいということだ。これは例の23年前の富士山麓の研修で教わったことでもある。要するに、教える側のエネルギーやマンパワーも限られているから、コストエフェクティブネスを考えて、90%のほうに教育のリソースを傾けろということだ。

石井:でも、お言葉を返すようですが、その90%はどういう集団なのかはなかなか見極めづらいですね。

金田:どういうふうになるかは別として、底辺の5%にマンパワーやカネといったリソースを傾けると効率が悪いから、そうではないほうにリソースを傾けたほうがいいということだろうね。そこに、どういったエビデンスがあるのかは聞かないでしまったのだけれども、行動経済学のあたりから出てきた考え方かもしれない。でも、正しいかどうかは分からないね。

石井:難しいですよね。

金田:だから下のほうの人たちは切らずに、放っておけということだろう。

石井:放っておけですか(笑)。

金田:放っておかれた人たちがどうなるのかというと、例えば犯罪心理学の観点から、それがネガティブにパワーアップする危険性はないかなどを含めて、本来は考えないといけない。でも、そこまでの議論は23年前の研修の中にはなかったような気がする。

金田先生は多様性を考えて、初期研修医の採用を決めていらしたのですか。

金田:石巻赤十字病院は基本的には東北大学の関連病院なので、東北大学の学生が大勢応募するんだけれども、半分以上は採るなと言っていました。僕は武蔵野赤十字病院を非常にいい病院だと思っています。武蔵野赤十字病院はとても大きな病院なのに10人しか初期研修医を採用せず、東京医科歯科大学(現 東京科学大学)の関連病院なのに医科歯科からは2人しか採用しないと聞きました。医科歯科に限らず、1大学マキシマム2人しか採用しないそうです。当時、私と同学年の日下隼人先生が臨床研修部長をしておられたので、「どうしてなんですか」と聞いたら、やはり「多様性だ」と。少なくとも東京医科歯科大学の色には染めたくないとおっしゃっていた。一方で、私は東北大学の教授たちからは「もっと東北大学の学生を採れ」と言われて、ずっとお断りをしていたので、教授たちからは嫌われていました(笑)。

石井:大学側としては採ってほしいですよね。

金田:でも、多様性はとても大切だと思う。世間では比較的優秀でないと言われている大学の学生でも採ったほうがいいというのは似たような人たちばかりの組織とは違う組織になるからだ。少なくとも国家試験という足切りがあるわけだから、国家試験に受かる程度の人たちであれば、あとは教育の仕方で伸びるはずなんですよ。だから、私が採用にあたって重視しているのは学力ではなく、人間性。面接試験のときに面白そうな人を採ると、大抵の場合は大丈夫なんです。中には俺をハメて、猫を被っていた人もいて、しまったと思ったこともあるけど、それはそれで立派なものだよね(笑)。採用者を騙すなんて。

石井:先生を騙せるわけですからね。

金田:あっちはあっちで戦略を練ってくるわけだから、その戦略に引っかかった私が悪いのであって、こちら側も利口にならなくてはいけない。ただ、大学を留年した人たちを好んで採用していたら、半分ぐらいが留年した人たちになってしまい、国家試験に合格するのかどうかが心配になったことがあった。そのときに優秀な若手から「留年生ばかり採ったら、国家試験を心配するようになるのは当たり前ですよ」と怒られたこともあった(笑)。でも留年するような人間は面白いんですよ。「何で留年したの」と聞いたら、「合唱団に入って、ずっと歌を歌っていたら留年してしまいました」とかね。高校時代にグレたか何かで高校を卒業せず、大検を取った人もいて、「これ面白い。イチオシ」と言って採用したりもした。そして、その人たちは優秀な研修医になっていきました。

石井 正教授

東北大学病院 総合地域医療教育支援部

1963年に東京都世田谷区で生まれる。1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。

日本外科学会認定登録医、日本消化器外科学会認定登録医・消化器外科指導医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・指導医、社会医学系専門医・指導医など。

金田 巌名誉院長

石巻赤十字病院

1947年に山形県西置賜郡白鷹町で生まれる。1972年に東北大学を卒業後、研修医を経て、東北大学第二外科に入局する。1983年石巻赤十字病院に外科部長として着任する。2012年に石巻赤十字病院院長に就任する。2018年3月に石巻赤十字病院院長を退任する。現在は石巻赤十字病院で非常勤医師を務めている。

石橋 悟院長

石巻赤十字病院

1967年に青森県八戸市で生まれる。1991年に旭川医科大学を卒業後、古川市立病院(現 大崎市民病院)で研修を行う。1994年に東北大学第二外科に入局する。2001年に石巻赤十字病院小児外科に部長として着任する。2006年に石巻赤十字病院医療技術部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院救急部長兼医療技術部長に就任する。2011年に石巻赤十字病院救命救急センター長兼医療技術部長に就任する。2014年に石巻赤十字病院副院長兼救命救急センター長兼医療技術部長に就任する。2018年に石巻赤十字病院院長に就任する。

臨床研修協議会臨床研修プログラム責任者、臨床研修指導医、宮城県難病指定医、宮城県小児慢性特定疾病指定医、宮城県身体障害者福祉法第15条第1項指定医師など。