医療ニュース 2025.04.21

新生児の脳症抑える化合物、炎症の原因となる細胞だけを死滅…滋賀医科大チームが開発

 出生前後の赤ちゃんに重篤な脳障害をもたらす病気の治療に役立つとみられる化合物を開発したと、滋賀医科大のチームが発表した。マウスに投与する実験では障害が軽減したことを確認しており、重症化を食い止める治療法となる可能性がある。論文が国際科学誌に掲載された。

 この病気は「新生児低酸素性虚血性脳症」。子宮破裂や、胎盤が突然はがれるといった緊急事態で赤ちゃんに送られる酸素や血流が不足し、重篤な場合は死に至る。1000人に1~3人の割合で生じる脳性まひの主な原因となっている。体温を下げ、症状の進行を抑える「脳低体温療法」で治療するが、効果は限定的だ。

 辻俊一郎准教授らは、低酸素・虚血状態に陥ったときに脳に炎症を起こす免疫細胞に着目。2018年のノーベル化学賞の対象になった技術で、狙った細胞だけにくっつく「ペプチド」という化合物を見つけ出す手法を活用し、炎症の原因となる細胞だけを狙って死滅させる化合物を開発した。

 病気を再現したマウスの脳に化合物を注入する実験で、この細胞の数が5~7割減ったことを確認。運動や記憶をつかさどる脳の領域の 萎縮いしゅく が抑えられ、運動機能も正常なマウスに近い状態に保たれていた。

 辻准教授は「将来、人に応用できれば、脳症による赤ちゃんの死亡や後遺症を減らすことが期待できる」としている。

  名古屋大病院の佐藤 義朗よしあき ・総合周産期母子医療センター長の話 「炎症性の細胞を選択的に除去する新しい手法で、障害を大きく改善できる可能性を示した画期的な成果だ。今後、脳への適切な投与経路を確立し、動物や人への投与で安全性と有効性を確かめることが課題になる」